法的には借地権を相続する際に、地主の承諾は不要とされています。
しかし、相続をすることで地主から様々な要求をされるケースも少なくありません。
また、借地権のトラブルは兄弟などの親族で揉めることもあります。
まずは、借地権相続に関して地主との間でのトラブルが起きた時の回避方法と、兄弟間でのトラブル・解決策について解説していきます。
借地権を相続する際、地主が何らかの権利を主張してくることがあります。
例えば、名義変更料や承諾料、地代の値上げなどを要求されたり、借地契約の更新を拒否されたりすることもあります。
名義変更料や承諾料の支払い義務はありませんが、少額であれば支払ってトラブルを回避することをおすすめします。地代の値上げは、原則として応じる必要はありません。
借地契約の更新の拒否は、「正当の事由」がないことを強く主張して、契約更新を認めさせるなど対処が必要です。
借地権相続は、地主との間だけでなく兄弟間でもトラブルが発生することがあります。
よくあるケースは、「誰が借地権を相続するのか」という問題です。
借地権付きの建物は、財産価値が高くて遺産の中でも大きな割合を占めていることが一般的です。そのため、兄弟間で誰が相続するのか揉めることがよくあります。
兄弟間での話し合いがまとまらない時は、法的手続きになる遺産分割調停・審判を利用して解決を図るようにしましょう。弁護士などの専門家に相談しながら進めていくことが解決の近道になります。
借地権を相続した場合、地代と毎年の固定資産税を支払わなければなりません。また、相続税が発生する可能性もあるため、それを支払う経済的負担もあります。
なお、固定資産税は建物に対する固定資産税の支払いには義務がありますが、土地に対しての固定資産税は地主が支払うことになります。
地主に土地の固定資産税の支払いを求められることはほとんどありません。万が一、地代の他に固定資産税の支払いを求められたら、支払う代わりに納得のいく地代にしてもらうなど交渉をするようにしましょう。
借地権を相続したくないのであれば、相続放棄することが可能です。
相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述書を提出して、受理されることで相続放棄は完了します。
ただ、相続放棄した場合、借地権以外の全ての遺産も相続できなくなるため、相続したい遺産が他にもあるのに相続できない状態となり、自分自身が不利益を受ける恐れがあります。
相続放棄の際は、慎重に決断するようにしてください。
相続放棄は以下のような方法と流れで行われます。
1.相続放棄にかかる費用・書類を揃える
2.預貯金・株式・不動産・負債など被相続人の相続財産を全て調べる
3.家庭裁判所に必要書類を提出して相続放棄を申し立てる
4.家庭裁判所から届いた照会書の質問に回答して、家庭裁判所へ返送する
5.家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届いたら相続放棄の手続完了
相続放棄の手続きは、相続人自身でも行えます。
ただ、手続きには専門的な知識も必要になってくるため、家庭裁判所に相談しながら準備を進めるようにしてください。手続きに不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談して、手続きを代行してもらうのも手です。
相続人が未成年や海外在住の場合も、相続放棄の手続きをすることが可能です。
それぞれの相続放棄の手続きを見ていきましょう。
未成年に対する相続放棄の場合、本人だけで相続を放棄するかどうかを判断することができないため、親権者が法定代理人として手続きを行うことになります。
未成年の相続放棄では、法定代理人である親権者と未成年者との間で利益相反する場合、特別代理人を選任しなければならない場合もあります。
利益相反とは、一方が利益になり、もう一方が不利益になる行為のことです。
例えば、親と子どもが相続人になった時、子供だけが相続放棄する場合、親権者である親と相続人である未成年者が利益相反の関係になってしまいます。
この時、親権者は未成年者の代理人になることはできず、特別代理人を選定しなければなりません。
親と子供の両方が相続放棄する場合には、利益相反にはならないため特別代理人は必要なくなります。
未成年の相続放棄での手続きは、法定代理人が行うだけで流れは一般的な手続きと同じです。
ただし、先に述べた特別代理人を立てる場合、特別代理人を選任しなければなりません。
特別代理人の選任は以下のような手続きを行います。
1.管轄の家庭裁判所に特別代理人の申し立てをする
2.必要書類を準備する
3.特別代理人選任申立書を提出
4.裁判所からの照会書に回答
5.特別代理人選任審判書の受取
必要書類で重要なのが、「利益相反に関する資料」です。特別代理人を選任してもらうために、裁判所にその理由や状況を説明するための資料にあたります。
在外相続人でも、手続きの流れは一般的な流れと変わりありません。
ただ、日本に住所地がない場合、以下のような注意点があるため、気をつけましょう。
・家庭裁判所に在留証明書の提出を求められる可能性が高い ・裁判所によっては国際郵便に対応していないところもあり、必要書類の準備を日本在住の親族に頼まなければならない場合がある ・国際郵便ができたとしても届くまでに時間がかかるため、早めの行動が必要
相続放棄は3ヶ月の期限があるため、相続放棄を決めたら早めに対応するようにしましょう。
相続放棄のメリット・デメリットをそれぞれ見ていきましょう。
相続放棄することのメリットには、以下のようなものがあります。
・負債を相続しないで済む
・相続のトラブルに巻き込まれない
・遺産分割の手間を回避できる
・一人の相続人に遺産と負債を集中させたい時に便利
・一人が相続放棄しても相続税の基礎控除に変動はない
上記のように、トラブルを回避できたり、不利益を被らないなどメリットが多いです。
ただ、相続放棄した場合、デメリットもいくつかあります。
・借地権だけでなく他の資産も相続できない
・全員が相続放棄すると国庫に帰属される(民法959条)
・相続権の後順位の人に迷惑をかける可能性がある
・管理義務が残ることがある
・相続放棄の撤回はできない
・死亡保険金・死亡退職金の非課税枠が使えない
安易に相続放棄せず、相続財産や家庭の状況をしっかりと把握した上で、相続放棄するかどうかを検討するようにしましょう。
借地権を相続した場合の名義変更や売却などの借地権の処分方法について見ていきましょう。
借地権付きの不動産を相続する場合、以下の必要書類を持って法務局に名義変更の手続きを行います。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
・相続人の住民票または戸籍の附票
・遺産分割協議書または遺言書
・相続人全員の印鑑証明書
・固定資産税評価証明書
相続をする際、特定の相続人を決められない場合、借地権を共有することも可能です。
しかし、共有にすると借地権や建物の売却などの際に共有者全員の同意が必要になるなど、複雑化する恐れがあります。
借地権の相続をする場合は、単独での相続をおすすめします。
また、名義変更には書類準備などの複雑な手続きが必要になってしまうため、登記の専門家である司法書士に手続きを依頼するのも良いでしょう。
まず、借地権を売却する場合、地主の承諾をもらうことが大前提です。
どうしても地主が売却を認めてくれない場合は、借地非訟を申し立てることで売却できる可能性もあります。
売却には以下の方法があります。
・地主に売却する
・地主の承諾を得て第三者の売却する
・地主と等価交換を行って第三者に売却する
・地主と交渉して借地権と底地権をセットにして「所有権」として第三者に売却する
いずれにしても、地主の承諾や交渉が必要になってくることがわかりますね。
借地権の売却を決めたら、借地権の不動産売却査定を行って値段を決めます。
地主に借地権を売却する場合、借地人から地主に売却を依頼した場合、更地価格の5割程度が売却相場となるそうです。
反対に、地主から買取を依頼された場合は、更地価格の6〜7割程度が売却相場になります。
第三者に売る場合も同じ更地価格の6〜7割程度です。
基本的に、借地権を売却・譲渡・転貸する場合は、地主に承諾を貰わなければなりません。
地主には以下のような内容を承諾してもらわなければなりません。
・売却の承諾
・売買に建て替えや増改築が関わってくる場合の建物増改築の承諾
・借地権の目的変更などの条件変更の承諾
・抵当権設定の承諾
もし地主から承諾を得られない場合、「借地非訟」と呼ばれる裁判所の手続きを行って承諾を得なければなりません。
ただし、借地非訟の申し立てをしたからと言って、必ずしも承諾が得られるわけではないことには注意しましょう。