土地や建物などの不動産を所有していると固定資産税を払わなくてはなりませんが、これは相続した不動産に対しても同じことです。ただ、相続候補者がはじめから一人だけの場合は問題ありませんが、一般的には複数名の候補者がいることの方が多いものです。
相続候補者が複数名いる場合は、不動産は相続人が決まるまでいったん相続人全員の共有財産となります。そこから遺産分割協議を行い、相続候補者それぞれが各々の遺産を相続していきます。
そして先代が亡くなった年の翌年1月1日から、不動産の相続人に決定した方に固定資産税の支払い義務が移るのです。
とはいえ、その日までに相続人が一人に決定しない場合も多いものです。
ひとつには、先代が亡くなりいったん共有財産となった遺産について、分割協議を行わなかったパターンです。 先代が亡くなった時期にもよりますが、年末近くに亡くなった場合は遺産分割協議が間に合わず、その状態のまま年を越してしまうケースも多いでしょう。
そのまま翌年1月1日を迎えてしまえば、共有名義のままになってしまいます。
そしてもうひとつのパターンとしては、遺産分割協議を行ったものの相続人同士の話し合いがまとまらず、仕方なく法定相続分に則って共有名義とする場合です。共有名義となった不動産の固定資産税は、相続人全員に納税義務が発生します。
【2024年4月1日法改正】相続不動産は3年以内に登記の名義変更必須!罰則も!
不動産を所有していたら登記を行う必要がありますが、相続した不動産については今までその期限が設けられていませんでした。しかし2024年4月1日に法改正があり、3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。
これは、所有者が不明な土地が発生しないように見直された制度です。 そして相続登記をしなかった場合、10万円以下の罰金が生じるため、注意が必要になります。
共有名義不動産の固定資産税は持分ごとに支払い義務が発生しますが、課税に関しては持分ごとに行うことができません。つまり、名義人ごとに固定資産税を払うことはできず、基本的には代表者がまとめて支払うことになっています。
これは、地方税法の規定によって共有者全員が連帯納税義務者となるためです。 共有名義となった全員が固定資産税の納税義務を負い、連帯して納税するよう決められています。
共有名義不動産の固定資産税を支払うためには、まずは代表者を一人決める必要があります。 代表者は共有名義人同士が話し合った上で決めることができますが、代表になったからといって相続持分が多くなったり、逆に相続税を多く払わなくてはならないといった事態にはなりません。
単なる代表という位置づけで、 相続した際の諸手続きを行うことになります。
代表者が決まったら自治体に「相続人代表者指定届」を提出します。 話し合いで代表者が決まらず上記を提出していない場合は、自治体が代表者を選定することになります。
選定基準は自治体によって異なりますが、
・居住している人
・持分割合が多い人
・自治体に住民登録している人
・登記簿の記載順
などの基準に従って決定となります。
代表者が決まったら、納税通知書は代表者に一通だけ送付されます。 これは、共有者全員に送付して二重三重に納税されてしまうのを防ぐためです。
納税は代表者が行う必要があり、持ち分ごとに各々の相続者が納税することはできません。 そして一般的には納税のタイミングで代表者が他の共有者から持分ごとの額を徴収することになります。
納税通知書は、1月1日時点での所有者に毎年4〜6月に届き、これは一括で納付することもできますが、年4回に分けて納めることもできます。納税通知書及び課税明細書は再発行できないため、大切に保管しましょう。
※固定資産税の支払い期限は各市町村によって変わってきますので注意してください。
では、納税通知書が届いたにも関わらず、代表者が納税しなかったらどうなるでしょう。 その場合は、連帯納税義務のある共有者に連絡が行くことになります。
ですが共有名義者間でのやり取りがうまくいかず、誰も固定資産税を払わないまま時が経ち、そのうちに納付期限を過ぎてしまうパターンもあります。 期限を1日でも過ぎると延滞金が発生してしまうので注意が必要です。
長期間滞納すると財産を差し押さえられてしまうという事態にもなりかねません。
また逆に、代表者は納税したものの、共有名義者が持分相当の額を払ってくれなかった、というケースもあります。
代表者は共有者の分も一旦まとめて納税しているだけですので、回収できなければ困るはずです。
このように、「共有者が持分相当を払わない」ことこそ、まさに不動産を共有名義にした場合のトラブルの一つなのです。
代表者を含む共有者が固定資産税の持分相当を支払わない状況には、いくつかのパターンがあります。 支払わない理由としては大きく次のようなものが挙げられます。
1.正当な理由がないのに支払わない
2.正当な理由があって払えない(死亡している、所在不明である、認知症である等)
3.持分放棄をしている
上記の中で2については支払いたくても支払えない状況ですので、次の相続人や代理人等に請求できるパターンが多いでしょう。
3については持分を放棄しているのでそのように手続きを行うことで対応できます。*
厄介なのは1の「正当な理由なく支払わない」というパターンです。
共有者が正当な理由なく持分を払わないというケースについて、次で対処法を見てみましょう。
*その年の1月1日時点で共有名義者となっていた場合は支払い義務が発生します。
代表者(代表者が支払わなかった場合は共有者)が固定資産税を納税したにも関わらず、他の共有者が持分相当を払ってくれないーーー。
その場合は、「求償権」を行使することができます。
「求償権」とは他の共有者の支払い分を立て替えた際、その立て替え分を請求できる権利です。 請求は次のような順番で行うことができます。
1.まず最初に口頭、電話、郵便等で共有者へ直接請求します。
2.上記の請求に応じない場合は、「内容証明」で請求を行います。
3.それでも支払わない場合は支払督促や裁判を介して督促します。
4.裁判で勝訴しても支払わない場合は、共有者の給与や預貯金などが差し押さえられ、強制的に徴収することになります。
ただ、この「求償権」は5年で時効となってしまうので注意しなくてはなりません。 固定資産税を立て替えてから5年が経つと権利がなくなってしまうため、確実に徴収するためには速やかに請求を行う必要が出てきます。
また一方で、共有者が請求に応じない場合は、「共有持分買取請求権」を行使することもできます。
しかし、「求償権」や「共有持分買取請求権」の行使は、いずれも長い時間がかかります。 その上、裁判や複雑な手続きともなると弁護士を立てる必要があり、弁護士費用の方が多くかかったなんて事態にもなりかねません。 費用の回収の目処を立ててから踏み込む必要があるでしょう。
相続不動産が共有名義となるのは、一緒に育った兄弟姉妹・血縁者である場合が一般的です。 でも、共有名義としたばかりにその関係に亀裂が入るケースもあります。
遺産相続は、育児や介護で忙しい中高年以降に発生することが多いものです。 共有者それぞれの事情はあるでしょうが、血縁者とのトラブルを避け、穏便に生活するためにも、遺産の共有名義は避けた方が無難と言えるでしょう。
トラブルを避けるため、また、相続税の観点からも、相続した不動産は早急に売却し、相当分の金額をそれぞれ相続することをお勧めします。