遺産分割協議書とは、複数人いる相続人が全員で「誰が、何を、どれくらい相続するのか」を決め、その内容を記載した書面のことです。作成後は複数の相続人全員がその内容に同意したことを示すために実印を押し、一部ずつ所持します。
作成しなくても法律上問題はありませんが、言った言わないのトラブルを防ぐためにも、作成しておくことをお勧めします。 また、相続登記を申請する際にも必要になるものです。
相続が発生したからと言って、必ずしも遺産分割協議書が必要になるわけではありません。 では、どんな時に必要となってくるのでしょう。
■遺産分割協議書が必要な場合
・遺言書がなく、法定相続分とは違った遺産分割を行う時
※相続人全員の合意があれば法定通りの遺産分割でなくても可能となります
・遺言書はあるが、不備がある時
・遺言書はあるが、相続者が内容に納得がいかない時(遺言書通りに遺産分割をしない時)
・遺言書に記載がない財産が出てきた時
・相続登記や相続税申告等の手続きが必要な時
上記の通り、不動産などを名義変更をする際にも、遺産分割協議書が必要になる場合があります。
故人の名義から相続人の名義へ変更しないと、売却などの手続きができなくなるためです。
※法定相続分で共有して相続する場合は、登記に協議書は必要ありません。
また、不動産の相続登記は2024年4月から義務化されますので、不動産を相続する際はきちんと協議書を作成する必要があるでしょう。
■遺産分割協議書が不要な場合
・遺産の相続人が一人の場合
・遺産が現金・預貯金だけの場合
・名義変更が必要のない遺産だけの場合
・有効な遺言書があり、相続人が同意している場合
・法定相続分の割合に沿って分割する場合
相続が発生した際は上記に当てはめて遺産分割協議書が必要なのかどうかを確認し、必要な場合は速やかに準備に取り掛かりましょう。
では、遺産分割協議書は具体的にどのように作成すればいいのでしょう。 遺産相続協議書は下記のような流れで作成するとスムーズです。
1.遺言書の有無を確認する 遺産分割協議の前には、必ず遺言書の有無を確認してください。後で遺言書の存在が明らかになった場合、トラブルの原因となりますので注意しましょう。
2.相続人を確定する 相続が発生した際、まずは相続人を確定させる必要があります。 故人の戸籍謄本などを取り寄せて確認し、もし認知した子どもがいればその方も相続人となりますので、遺産分割協議を行う場合は参加することになります。
3.故人の財産を確定する 故人が所有していた財産も確定させる必要があります。 財産は現金・預貯金・不動産などの正の財産はもちろん、借金やローンなどの負の財産も把握しなければなりません。相続人が確認しやすくするためには財産目録を作成することをお勧めします。
4.遺産分割協議を行う
上記が確定してはじめて、遺産をどのように分割するか相続人全員で話し合っていきます
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月後に設定されています。
ただ、遺産分割協議でなかなか話がまとまらず、何度も協議を行うケースも珍しくありません。
協議が長引くと期限に間に合わなくなることもあるため、何度も協議することを想定し、なるべく早めに遺産分割協議に取り掛かりましょう。
もし遺産分割協議が難航し合意できなければ、家庭裁判所の調停委員会にて遺産分割調停を行います。
それでも合意できない場合は、家庭裁判所の「遺産分割審判」で決定されることになります。
5.遺産分割協議書を作成した後、全員が合意した内容を記載する
作成した遺産分割協議書は、後々のトラブルを防ぐためにも相続人全員分を作成したほうがいいでしょう。
それぞれが自筆で署名、実印を押印して所持しておきます。
また、不動産登記や金融機関の手続きの際は印鑑登録証明書の提出が求められますので、相続人全員が印鑑登録し、証明書を発行してもらいましょう。
遺産分割協議書は特に決まった書き方があるわけではありませんが、記載しなければならない必須項目を抑える必要があります。
【遺産分割協議書に記載するべき必須項目】
故人の名前、死亡日、住所、本籍地
相続人全員が遺産分割内容に合意していること
相続財産の詳細(銀行名・支店名・口座番号など)
相続人全員の名前、自署・住所と実印の押印
上記項目が抜けている場合、無効になってしまうため必ず記載するようにしましょう。
遺産の中には故人が他者と共有していた不動産がある場合があります。 この場合、故人が所有していた不動産の割合だけが相続の対象となります。
例えば、不動産の1/2を故人が所有していて、他者が1/2所有していた場合、故人の所有分である1/2だけが相続の対象となるのです。これが共有名義の不動産相続です。
「親子で不動産を共有していたが、親の方が亡くなってしまった」という場合の相続パターンを見てみましょう。 この場合、不動産を共有者していた子供が親の共有分も相続すると考えられがちですが、そうならない点に注意が必要です。
故人が所有していた共有名義不動産の持分も、他の財産と同様に相続財産として扱われます。 例えば他の兄弟、そしてもう片方の親が存命の場合はその親も相続の対象となるのです。
不動産の共有者であった子供でも優先して不動産を相続できるわけではなく、遺言書がない場合は他の遺産と同じように遺産分割協議を行なって誰が何を相続するかを決めなければなりません。
そして相続する人が決定した後は名義変更の手続きをすることになります。 不動産の名義変更手続きのことを「相続登記」と言います。
では、不動産を共有名義で所有していた場合の遺産分割協議書はどのような点に注意して作成すればよいでしょう。 気をつけなければならないのは、物件の特定が曖昧にならないようにすることです。
「自宅」などのように客観的に特定できない記載はしないようにしましょう。 第三者にとっては「自宅」がどこにあるのか、どの建物なのか分からないからです。
一番わかりやすく間違いが起こらないのは、登記簿謄本通りに
(土地の場合)所在地、地番、地目、地積
(建物の場合)所在地、家屋番号、種類、構造、床面積
を記載することです。
また、固定資産税の課税明細書を見て書き写すのはお勧めできません。
課税明細書は登記簿謄本とは異なった記載がされている場合があるためです。
登記簿謄本と異なる記載の場合、相続登記が認められない可能性があるため、最初から登記簿謄本の記載を見て書き写すことが大切です。
そして共有持分不動産の場合は、上記の後に「被相続人(故人名)持分 1/2」等、相続分の割合を記載することも必要になります。
故人が不動産の共有持分を所有している場合に間違えやすいのが、この遺産分割協議書に記載する際の分割割合です。遺産分割協議書に記載するのは「どのように故人の所有財産を分配したのか」であるため、分配した割合を記載する必要があります。
たとえば故人が不動産の共有持分1/2を所有しており、それを子供2人で1/2ずつ分けるとします。その場合、不動産全体から見ると1/4ずつ所有する形になりますが、遺産分割協議書では「故人の遺産を1/2ずつ取得した」ことになるため、相続者はそれぞれ1/2ずつ相続したことを記載しなくてはなりません
。ですから、記載する持分割合については、合計が「1」になるよう注意しましょう。
故人の共有持分だった不動産を共有者ではない人物が相続し、引き続き共有不動産となった場合、その後も何かとトラブルが起こるケースがあります。
相続したときは共有者同士仲が良かったとしても、時が経ち険悪な仲になっていたなんてこともあるでしょう。
将来、金銭が必要になり不動産を売却したいと思っても、共有者が反対すれば売却することはできません。
その上、共有者の誰かが死亡してしまうとその相続人が新たな共有者となりますが、その方とうまく関係を作っていけるかどうかもわからないでしょう。
故人の共有持分を相続人が法定相続分で引き継いだ場合、さらに共有者が増えてしまうという事態になりかねません。 共有者が増えると権利関係が複雑になり、トラブルが発生しやすくなることを念頭に置いておきましょう。
所有している不動産を自分だけの意思決定で動かせないのは、大変ストレスフルなことではないでしょうか。 不動産を共有することで時間もお金もかかることが予想されるため、後世のためにも、できる限り共有にしないことをお勧めいたします。