共有名義の不動産に相続が発生した場合、共有者の持分は相続財産となり、法定の相続人によって相続されます。相続には順位と割合が定められており、遺言書の有無によって手続が異なります。
共有名義の不動産の相続には、共有者間の協議や相続登記など、特有の手続が必要です。くわしく見ていきましょう。
共有名義の不動産とは、複数人が所有権の一部を持つ不動産のことです。共有者はそれぞれが所有する持分に応じて不動産を使用し、利益を得る権利を持ちます。
共有名義の不動産は、夫婦や親子など家族間で共有されることが多いですが、親戚や友人など、相続関係にない人々との共有も可能です。共有状態の不動産を保有している場合、相続が発生すると共有持分が相続財産となり、相続人に移転します。
共有名義の不動産の相続においては、共有持分の割合に応じて、相続人がその持分を相続することになります。共有者の誰かが亡くなった場合、その持分は原則としてほかの共有者に自動的に移転するわけではなく、相続手続が必要です。
相続順位とは、相続人が相続財産を受け継ぐ順序のことです。日本の民法では、相続人には配偶者、子、親、兄弟姉妹の順に相続権があります。
相続順位 | 相続人 | 詳細 |
順位なし | 配偶者 | 常に相続人 |
1位 | 子 | 亡くなった人の子供全員 |
子供がすでに死亡している場合は、孫やひ孫が相続人となる | ||
2位 | 父母 | 子供がいない場合は、両親 |
両親が死亡している場合は、祖父母が相続人となる | ||
3位 | 兄弟姉妹 | 父母もいない場合は、兄弟姉妹 |
兄弟姉妹が死亡している場合は、甥・姪が相続人となる |
共有持分の相続では、亡くなった共有者の持分は、この相続順位に従って相続人に引き継がれます。遺言書がある場合は、遺言の内容に従って相続が行われますが、遺言書がない場合は法定相続分にもとづいて相続が進められるのが一般的です。
共有持分を相続する際には、相続人間での遺産分割協議が重要となり、共有者全員の合意が必要です。相続人が複数いる場合、共有状態を解消するために不動産を売却することもひとつの選択肢となります。
共有不動産の相続においては、相続税の問題も発生するため、税理士などの専門家に相談することが賢明です。相続登記を行うことで、不動産の名義変更を正式に行い、相続人の権利を保護できます。
不動産の共有名義人が亡くなった場合の相続手続には、以下の4つのステップがあります。
順を追って見ていきましょう。
不動産の共有名義人が亡くなった場合、まず遺言書があるかどうかを確認するのが基本です。遺言書がある場合、その内容に従って相続が進められます。
自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認が必要ですが、公正証書遺言や法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言の場合は検認は不要です。遺言書がない場合や遺言書に不備がある場合は、法定相続分にもとづいて相続が行われます。
遺言書による指定がない場合、共有持分を相続するのは共有名義人の相続人です。その場合の相続人は、被相続人の配偶者や子、親、兄弟姉妹など、法律で定められた順序に従います。
遺言書がある場合でも、法定相続人には遺留分が保証されており、遺留分を侵害する遺言は一部無効となる場合があります。
相続人が確定していない場合、亡くなった人の戸籍謄本を収集し、親族関係を調査して相続人を特定します。相続人が複数いる場合、遺産分割協議を行う前にすべての相続人の同意が必要です。
相続人の中には、法定相続分にもとづいて相続する人もいれば、遺言によって指定された相続人もいます。相続人が確定したら、不動産以外にも預貯金や株式などの相続財産を確定させます。相続財産のリストを作成し、相続財産目録を作成するのがおすすめです。
相続人が確定したら、次に遺産分割協議を行います。遺産分割協議は、相続財産をどのように分割するかを相続人全員で話し合い、合意に達することが目的です。
遺言書がない場合や、遺言書に遺産分割に関する具体的な指示がない場合には、この協議が必要となります。協議には不動産の評価や、相続税の計算など、専門的な知識が必要な場合もあるため、弁護士や税理士などの専門家に相談することもひとつの選択肢です。
遺産分割協議によって合意が成立した場合は、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印します。この協議書は、後の相続登記や相続税申告の際に重要な書類です。遺産分割協議で合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることもできます。
遺産分割協議が終了し、不動産の相続人が確定したら、相続登記を行う必要があります。相続登記は、亡くなった共有名義人の持分を相続人の名義に変更する手続です。
登記を行うことで、相続人の権利が法的に保護され、不動産の取引が円滑に行われるようになります。相続登記には、遺産分割協議書や戸籍謄本などの書類が必要です。
また、登記申請は法務局に提出する必要があります。相続登記を行わないと、不動産の売却や抵当権の設定などができなくなるため、速やかに手続を行うことが重要です。相続登記は複雑な手続が多いため、司法書士などの専門家に依頼するのでよいでしょう。
相続登記には、法的な証明として、主に以下のような書類が必要です。
相続人の戸籍謄本
被相続人の死亡後に取得したものが必要です。本籍地の市区町村で取得します。
相続人の住民票
新たに名義人となる相続人のみ必要です。住所地の市区町村で取得します。
固定資産評価証明書
名義変更手続をする年度のものが必要です。市町村で取得します。
相続関係説明図
相続関係を略図化したものです。手書きでも構いません。
遺産分割協議書
法定の相続割合以外で名義を入れたい場合に必要です。相続人全員が実印で押印します。
印鑑証明書
遺産分割協議書を提出する場合に必要です。基本的には相続人全員分が必要です。
不在籍証明書・不在住証明書
住民票等の証明書類が取得できない場合に使用します。
登記済権利証
住民票等の証明書類が取得できない場合に使用します。提出できる場合は、ほかの代替書類は不要です。
上申書
住民票や戸籍などの保存期間が経過して取得できないと、基本的には登記申請はできません。しかし、上申書を添付することで特別に受理される場合があります。
相続登記の申請は、必要書類を揃えた後、法務局に提出することで行います。申請書の作成には法律知識が必要なため、専門家に相談することが一般的です。
法務局に申請書を提出する際は、窓口で直接提出するか、郵送で送ることができます。申請が受理されると、法務局は登記簿に変更を記録し、相続登記の完了です。
相続登記が完了すると、相続人は登記済証を受け取ることができ、これにより正式に不動産の所有権が移転されます。相続登記は、相続人の権利を保護し、将来のトラブルを防ぐためにも重要な手続です。
相続登記の手続には時間がかかることがあるため、早めに手続を開始することが推奨されます。
共有名義の土地の相続において、共有状態を解消することは、相続人間のトラブルを避けるために重要なことです。特に相続によって共有者が多数になると、その取り決めが複雑になりがちです。
相続登記を行うためには、共有者全員の合意を得る必要があるため、ひとりでも合意しない共有者がいると、登記ができないことさえあります。
相続人間で合意が得られない場合には、裁判所による調停や審判を利用することも可能です。いずれにしても、共有状態の解消を目指す場合には、共有者全員との円滑なコミュニケーションが必要となります。
共有状態を解消する現実的な選択肢として、以下のように4つあります。
1〜3までの選択肢は、共有者の一部もしくは全員との合意が必要になり、手続も複雑で時間がかかります。しかし、4つめの「自分の持分不動産業者に売却する」という選択肢は、シンプルで確実な方法としておすすめです。
共有不動産全体の売却は共有者全員の合意が必要ですが、自分の持分は他の共有者の合意なく売却できます。この選択肢は所有権を有効に活用し、資産を迅速に現金化できるのがメリットです。また、売却してしまえば、その後に起こり得る共有者間のトラブルに巻き込まれる心配もなくなります。
一般的に共有持分の売却は、扱いにくさゆえに価格が相場よりも安くなりがちです。しかし、不動産業者に直接売るという「買取」方式であれば、取引も円滑に進み、速やかに現金化できます。
さらに共有持分の扱いを得意とする買取専門の業者であれば、適正価格に近い高値で買い取ってもらえる可能性があります。
不動産の共有名義人が死亡した場合の、共有持分の相続は、共有者間での合意が必要となるため、手続が複雑になることがあります。共有状態を解消する方法としては、遺産分割協議や共有者全員の合意による売却などがありますが、相続人間での調整が必要となります。
また、相続税の申告や納付が必要な場合もあるため、専門家への相談も欠かせません。共有名義の土地や不動産の相続に関するトラブルを避けるためには、共有者間でのコミュニケーションを大切にし、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることが重要です。
なお、自分の共有持分を買取業者に売却するという選択肢は、取引もシンプルで資産をすぐに現金化でき、将来起こり得るトラブルを未然に回避できる方法としておすすめできます。